心理カウンセリングへのアクセス [どのくらい編]

 気がつけば「誰に編」を書いてから一年が過ぎてしまいました。カウンセリング先を探すときに他に何か知っておけると良いことはあるかな……と考えて、今回は回数・期間について紹介してみようと思います。

「どのくらい」

 「どのくらいかかるんだろう?」という疑問はカウンセリングを利用するにあたって当然の疑問です。カウンセリングは基本的には高額ですし(例外は過去の記事を参考にしてください)、人生は有限だからです。また、「どのくらいかかりますか?」には「本当に良くなるのだろうか」という不安が含まれている場合もあるでしょう。これもまた当然のことです。

 ところが、現実には心理士もいろいろですし、困りごともいろいろなので、真正面からの一般的な回答がむずかしい問いでもあります。数回で改善までいたるケースもあれば、それなりの期間を必要とするケースもあります。短期間での変化を志向する心理士もいるでしょうし、長い時間をかけて関わることを前提とする心理士もいるはずです。そもそも「どのくらいかかるんだろう?」がどのような状態を目指してなのかによっても異なります。残念ながら、一概にこのくらいですとは今のところ答えられそうにありません。

 とはいえ、ケースバイケースですね、では何も言っていないのと変わりません。どのくらいかかるのかへの一般的な回答はひとまずあきらめ、変化球的な回答ですが、ここではひとつの基準として、「10回くらいを継続して改善に希望が持てるかどうか」を提案したいと思います。ただ、あくまで私個人の考えであり実際に訪れた相談機関・医療機関の心理士も同様とは限らないこと、現実には例外がたくさんあることをあらかじめご承知いただければと思います。

10の区切り

 10という数字はキリがいいから、だけではありません。日本での論文を見つけることはできませんでしたが、おそらくは保険制度との関係もあるのでしょう、海外では心理療法の回数と効果の研究が行われています。Asay & Lambert (1999)は心理療法の効果についての論文のなかで過去の研究(たとえばHoward, Kopta, Krause & Orlinsky, 1986; Kadera, Lambert & Andrews, 1996)を取り上げて、カウンセリングでの望ましい変化は早いうちから生じることを紹介しています。

 Howard et al.の調査ではおよそ約50%が8回の面接の後に、約75%が26回の面接の後に改善するという結果でした。Kadera et al.の研究はより厳密な基準でなされており、全体としては10回の面接の後に約50%が25回の面接の後に約75%が改善を示していますが、より重篤な症状を持つ人では50%が改善を示すまでに16回の面接を要しました(なお、これらの数字はカウンセリングを受けた人全体についてのものではなく、そのうち改善を示した人についてのデータであることには注意が必要です)。

 こうした研究からは、カウンセリングの効果は長い年月をかけた後に突然現れるというより、比較的少ない回数のうちから生じるケースが多いと言えるでしょう。同時に、数回の面接での改善を期待するのは少しむずかしいとも言えるかもしれません(絶対にないとも言えませんが)。10回を継続して改善を実感できる、またはその希望が持てると感じるならばそのまま継続することでより良い結果が期待できます。

 一方、10回を継続してもなおそのように感じられない場合には、漫然と継続するよりも、そのことについて担当の心理士と話し合う方が良いかもしれません。なんだかうまく行っているように感じられないのですが、と口にすることは勇気のいることです。しかし、相談者にはその権利がありますし、それなりにまともな心理士であればその言葉を謙虚に受け止めるはずです。

 もちろん、この話は「10回までは継続しなくてはいけない」という意味ではありません。また、「10回を継続して改善しなかったら止めなくてはいけない」というものでもありません(先に挙げた研究でも約25%が25回より多くの回数を必要としています)。カウンセリングをどの程度継続するかは相談者が決めることです。信用できないと感じたり心理士側に不適切な行いがあり、それについて話し合う気持ちになれない場合にはより短期間で打ち切って差しつかえありません(その時点での状態によっては医療機関を勧められることはありえます)し、困りごとに改善が認められなくても継続したいと思えるならば続けるのも良いと思います。

 ご自身や周りの人のためのカウンセリング先を探すときの参考になれば幸いです。

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<資料>
・Asay, T. P., & Lambert, M. J. (1999). The empirical case for the common factors in therapy: Quantitative findings. In M. A. Hubble, B. L. Duncan, & S. D. Miller (Eds.), The heart and soul of change: What works in therapy (pp. 23–55). American Psychological Association.
・Howard, K. I., Kopta, S. M., Krause, M.S., & Orlinsky, D. E. (1986). The dose–effect relationship in psychotherapy. American Psychologist, 41(2), 159-164.
・Kadera, S. W., Lambert, M.J. & Andrews, A. A. (1996). How much therapy is really enough?: A session-by-session analysis of the psychotherapy dose-effect relationship, The Journal of Psychotherapy Practice and Research, 5(2), 132-151.
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