心理カウンセリングへのアクセス [誰に編] 1

 前回は[どこで編]として、カウンセリングを受けられるさまざまな場所を紹介しました。今回は[誰に編]として、カウンセリングを実施する側、心理士・カウンセラーにはどういう人がいるのかを資格の面から紹介します。

 突然ですが、ここでクイズです。以下の行為を業務として行うことは法律で禁じられている。○か×か??

1. 医師資格を持っていない人が診察する。
2. 調理師免許を持っていない人が料理人として働く。
3. 臨床心理士または公認心理師のどちらの資格も持っていない人がカウンセリングをする。

 答えは、1だけが○、2と3は×です。国家資格には業務独占資格と名称独占資格があります。前者はその資格を持っていないと行なうことができません。後者はその資格を持っていない人が名乗ることができません。

 医師は業務独占資格であるため、医師ではない人が診察を行うことは禁じられています。調理師は名称独占資格です。資格を持っていない人が「調理師」を名乗ることはできませんが、料理人として働くことは可能です。公認心理師も名称独占資格です。「心理師」や紛らわしい名称を名乗ることは禁じられています。しかし、業務独占ではないため、公認心理師資格を所持していなくともカウンセリング業務を行うことは可能です。臨床心理士は民間資格であるため、業務独占でも名称独占でもありません。

カウンセラーと資格

 どのような人が仕事としてカウンセリングを行っているかを知るうえで、まずはこの「今のところカウンセラーとして働くためには特定の資格を必要としない」ということをおさえておけると良いでしょう。

 このことは心理士の業界では常識です。一方、業界の外側の方がどの程度ご存じなのか、またどのように感じられるのかについては想像がむずかしいところでもあります。「へー」くらいでしょうか。それとも「そうだったの!?」くらいなのでしょうか。ちなみに私は料理人として働くには調理師資格が必須だと思い込んでいました……。

 特定の資格が必須ではないこともあり、心理の仕事に関係ありそうな資格は乱立しています。試しに「心理 資格」で検索してみましょう。私も知らない資格がたくさんあります。ある程度の学習・訓練を必要とするもの、日本学術会議に属する学会が認定するものもあれば、短時間のセミナーで取得できるものもあります。これが「乱立」と表現する所以です。

 さて、ここでは臨床心理士と公認心理師についてかんたんに紹介します。このふたつの資格を取り上げる理由は、
・現在のところ心理士・カウンセラーとして業務を行っている者は臨床心理士・公認心理師資格を持っている/いないで大別すると把握しやすいこと。
・この記事を書いている者(東)が取得している資格がそのふたつであること。
の二点です。

臨床心理士

 心理の資格のなかでは一番知名度の高い資格と思われます(心理の仕事自体がマイナーなので、それでも聞いたこともないという人も多くいます)。医療、福祉、教育、産業、司法など、さまざまな領域で臨床心理士が働いています。

 主に、資格認定協会が指定する大学院の修士課程を終えた後、一次試験(マークシートと論述)および二次試験(面接)を経て取得します。取得後は5年ごとの更新制度があり、そのために学会に出たり、研修を受けたりします。余談ですが、二次試験を通過できなかった場合、翌年は再度一次試験から受け直しです。

 資格認定協会のサイトによると近年の合格率は60%程度のようです。試験そのものよりも、受験資格を得るためのハードルが高いと言えるかもしれません。

 なお、心理学の研究科を持つ大学院は指定大学院だけではありません。臨床心理士資格を保持していない人のなかにも大学院で心理学を専門的に学んできた人はいます

公認心理師

 近年創設されたばかりの国家資格です。

 主に、学部・大学院で定められた単位を取得するか学部で単位を取得した後で実務経験を積むことで受験資格が得られます。ただし、法令成立後5年間に限り、実務経験が5年以上あれば講習会を受講することで受験資格を得られます。この定めにより、公認心理師は臨床心理士、精神保健福祉士、看護師、教師などさまざまなキャリアの人が保持する資格となっています。心理学の知識に加え、それぞれのキャリアに応じた知識も期待できるのではないでしょうか。

 心理研修センターのサイト(過去問を見ることもできます)によると、1年目の合格率は79.6%、2年目は46.4%です。私の知っている範囲においては臨床心理士資格を持っている人は全員が公認心理師資格も取得済みです。おそらくは初年度の試験でだいたいの人が合格しているのだと思います。

資格が意味すること

 臨床心理士の一次試験では臨床心理学と心理学全般の知識が、公認心理師試験では心理学に加えて精神医学や法律の知識が問われます。つまり、実技試験があるわけではありません。資格を持っている=高いカウンセリング技術、と言うことはできませんが、最低限の学問としての心理学についての知識はあるくらいには考えて良いかと思います。

 法律上は資格が必須ではないものの、現在、医療機関で働く心理職の多くが臨床心理士資格を保持しています。心理職の求人が臨床心理士資格を持っているか、取得見込み(受験資格がある)を条件としていることが多いからです。また愛知県内のスクールカウンセラーもほぼ全員が保持しています。

 むずかしいのは開業のカウンセリングルームをご自身で探す場合です。次回はもう少し私見を中心に述べたいと思います。

 続きです

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<資料>
・一般財団法人心理研修センター,http://shinri-kenshu.jp/
・公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会,http://fjcbcp.or.jp/
・公認心理師,厚生労働省,https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000116049.html
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