恐怖・不安と心理カウンセリング 3

年度末のバタバタの中で「続きます」と書いていたことを忘れていました。

続きです。不安・恐怖の全てが専門機関への相談を必要とするわけではありませんが、日常の生活範囲内(自分、家族、友人など)では対処できないと感じるときには早めの相談をお勧めします。ここでは医療機関と心理相談室(カウンセリングルーム)の場合を紹介します。

医療機関では

外科手術で感情自体を取り去ってしまうわけにはいかないので、医療機関での治療は恐怖・不安の苦痛を和らげ生活上の支障を解消することを目指します。

初診では30分ほどかけて治療の必要があるかどうか、どのような病気かが調べられます(身体疾患の可能性も含めて検討されます)。医師はプロですから、うまく話せないことを気にする必要はありませんが、心配であればメモを作っていくのも良いでしょう。現在の状態が病気であり治療が必要であると判断された場合には薬物療法をメインに精神療法(1回5~10分くらい)を併用されることが多いです。

ここでの精神療法には睡眠や食事、運動など生活指導や対人関係についての助言も含まれます。薬物療法についての疑問(どのくらい飲み続ける必要がありそうか、副作用はどういうものかなど)もこの時間に確認しておきましょう。

不安が強い状態であったとしても、精神疾患由来のものではない、または病気ではないと判断された場合にはその旨を説明してもらえるはずです。

医師の診療に加えて心理カウンセリングが望ましいと判断された場合には院内、あるいは外部の相談機関でのカウンセリングを勧められるかもしれません(例えばこのような形があります)。

余談ですが、ドイツの診療ガイドライン(Bandelow et al.,2014)には不安障害(パニック障害、全般性不安障害、社交不安障害、特定の恐怖症)の治療について「最も一般的な精神疾患」とした上で、「個々の要因(患者の好み、以前に試みられた治療、重症度、併存疾患など)を慎重に考慮して治療計画は選ばれる必要がある」「すべての治療は機能的で持続的な治療関係に基づいて実施されなければならない」「患者は治療方法についての十分に情報提供を受ける必要があり、十分な知識を持った患者の好みは尊重されなくてはならない」と記載されています。日本でもそうであればと素晴しいと思います。

心理相談室では

対話を通して困りごとの改善を目指したり、生き方・あり方を見つめなおしたりします。このサイトの心理カウンセリングの説明はその一例です。心理相談室は医療機関ではないため、薬物療法は行えません。お薬の服用の検討がありそうな場合には医師との連携がなされることになります。

先のガイドライン(Bandelow et al.,2014)では不安障害に推奨される心理療法として認知行動療法(CBT)や力動的精神療法が挙げられています。認知行動療法? 力動的精神療法? これは心理カウンセリングにもいろいろな学派がありまして……という話なのですが、また別の記事にしたいと思います。

大雑把なまとめ方をすれば、悪循環(とはいえ、現状そうなっているにはそれだけの理由があるはずです)を起こしている行動や思考のパターンを見つけて、身体/心の警報装置(恐怖・不安)との適切な付き合い方を身につけていきます。それを精神論で克服するのではなく、宗教的な導きでもなく、心理学の知見に基づいて進めていきましょう、というのが心理カウンセリングです(これはCBT寄りの説明で、力動的精神療法ではもう少し違う表現が適切かもしれません)。

恐怖・不安から逃れることで頭がいっぱいのときには視野は狭く、見通しは悪くなって当然です。警報装置が鳴っているときに落ち着けというのも無茶な話です(その警報装置は本当の危険を知らせているとは限らないのが厄介ですが……)。何に対して恐怖・不安を感じていて、そのことをどう考え、どのように対処し、うまく行っていること/いないことは何か……と整理していくだけで落ち着いて考えられるようになる方もいます。

多くの心理相談室では50分か60分が一枠として設定されています。ペースは個別の事情や心理療法の学派によっても異なり、CBTでは毎週あるいは隔週1回で開始するケースが多い印象です。

もうひとつ、医療機関と心理相談室の決定的な違いとして、心理相談室では医療保険が適用されません。勤務先が会社として包括契約を結んでいる場合や社内や学内の相談室に通う場合を除いて、原則全額自費負担となります。見聞きする範囲では1枠6000円~15000円くらいが相場のようで、経済事情はさまざまとしても安いと感じる人は少ないでしょう。通院とはまた別のハードルがあると言えそうです。

おわりに

恐怖・不安の成り立ち、働き、専門機関への相談と紹介してきました。より安全に生き延びる助けとなってきた感情も、程度と働きによっては私たちの人生から大切なものを奪いかねません。村上春樹の短編小説『七番目の男』には、あるものに強い恐怖を覚える人生を送ってきた男性の以下の台詞が登場します。

「私は考えるのですが、この私たちの人生で真実怖いのは、恐怖そのものではありません」

村上春樹 『七番目の男』

では真実怖いのは何か? 気になった方は是非読んでみてください。

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<資料>
・Bandelow, B., Lichte, T., Rudolf, S., Wiltink, J., & Beutel, M. E. (2014). The Diagnosis of and Treatment Recommendations for Anxiety Disorders. Dtsch Arztebl Int., 111(27-28), 473-480.
・村上春樹 (1996). レキシントンの幽霊 文藝春秋
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