2019/12/15 第6回臨床行動分析カンファレンス

第6回臨床行動分析カンファレンスに参加した際のメモや感想をまとめたものです(本記事は主催者の許可を得て公開しています)。

臨床行動分析は、平たく言えば、行動分析学の知見を言語でのやりとりを中心とした成人の臨床ケースにも適用する試み、でしょうか。

三田村仰 『はじめてまなぶ行動療法』 (2017) 金剛出版
ユーナス・R ニコラス・T (著) 松見 (監修) 武藤 米山 (監訳) 『臨床行動分析のABC』 (2009) 日本評論社

次回も半年後に開催されるようですので、専門職、大学院生の方で興味を持たれた方は是非。

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はじめに
会場は愛知県の心理職にはお馴染みのウインクあいち。同じフロアでは臨床心理士会の研修と精神分析のセミナーが開かれていた。

1週間前には定員に達していたとのことでギュウギュウの会場を想像していたが、余裕を持って座れるよう席が配置され、また後方の席用のモニターも置かれるなど快適な環境が用意されていた。

司会の瀬口先生は滑らかに喋る喋る。2週間の時をさかのぼり、同じビル、同じ会場での自分の司会を思い出して呆然としていたら趣旨説明が終わっていた。

研修は午前10時から午後5時まで、
・講演
・臨床に役立ちそうなアプリ/デバイスの紹介 & グループディスカッション
・事例検討×2
の3部構成。


第1部 講演
テーマは『機能的ケースフォーミュレーションの実際』で、講師は東海中央病院の今野先生。カジュアルな服装での発表が学会にスーツ着ていかない勢としては嬉しい。

前半では、心療内科・精神科領域における面接の「いきづまり」の起きやすさを入り口に、「原因→症状」型の見立て、医学モデルと対比する形で、
・哲学的基盤としてのプラグマティズム
・理論的背景としての学習の原理
・具体的な手続きとしての行動指標の利用
を三本柱とした臨床行動分析の機能的ケースフォーミュレーションを紹介。

行動療法の入門はいきなり学習理論の紹介からになりがちなところを、哲学的基盤から紹介することで新しく行動療法にふれる人とっても「何故、学習理論に基づくケースフォーミュレーションを選択するのか」がわかりやすくなるよう工夫がなされていた。

(やや乱暴にまとめれば)症状や問題がある状態を「悪い」、それが除去された状態を「良い」とするのではなく、現在では問題となっていることも過去の文脈においては機能的な行動であった、ある意味もっともなことなのだというスタンスで過去と現在を理解し、今後の方向性を共に考えること(現実と折り合いをつけるプロセスとも言えるだろう)の重要性は臨床家の実感として立場を問わず共有しえるところで、事例検討に入るための前提の共有としても機能していたと思う。

重箱の隅をつつけば、理論編から実践編までを詰め込んだことで、やや駆け足だった感もあるかもしれない。診断に基づいたケースフォーミュレーションと機能的ケースフォーミュレーションにおけるエビデンスの違いや単一事例における有効性の積み重ねをどのように全体に敷衍するのかなど、それ単体で時間をとる価値があるのでは。

また、個人的な関心からはプラグマティズムとの関係を歴史的経緯を踏まえてもっと詳しく知りたいと思った。プラグマティズムと言っても、パースのそれではなくウィリアム・ジェイムズのものに近い印象を受けるが、仮にそうであるならば、そこでは事実と価値は分けられない(はず)。行動分析学はその初期からそうした立場をとっていたのか、それともどこかの時点(ACT?)から取り入れたのだろうか。

心理学と哲学の切り離せない関係?

後半は実践編と題し、どのような問いで
・現在の問題の文脈
・行動
・過去の文脈
・今後の方向性
を特定していくか、継続して測定するデータにあわせて手続きを修正していくのかを、事例を紹介しながらの解説。

行動指標を手続きの有効性の証明としてだけでなく、どのように修正に生かすのか参考になった人も多いと思う。


第2部 ~ 第3部
第2部では、運営の人たちから、
・睡眠
・気分
・外出
・金銭管理
・飲酒
などのより正確なデータの計測に役立つアプリが紹介された。その後、どれくらいの人が実際にインストールしただろうか。

第3部の事例は省略。質疑応答も活況で、内容よりも形式にそれぞれの個性が表れているようで楽しい。


おわりに
学会の年次大会が大、身内での研究会が小とすると、本カンファレンスは中規模の研修機会と言える。年次大会は開催地までの距離や金額のハードルが、クローズドの研究会は参加のハードルが高くなりがちで、この規模は少し興味を持った人にも「ちょうどよい」のだと思う(そして安い)。

重要なのは規模や金額だけでなく「定期的に」開催されていることで、リピート参加者がゆるやかなまとまりを形成しつつ発表希望者が増えていくにはどうするか……そういうことを運営の人たちは考えているのかもしれない(実際はどうか知らないが)。

研修で得た知識を実際の臨床に応用し、発表に繋げるにはSVやより頻度の高い小さな研究会など、同じ言語を共有できる関係による日常的な下支えが要る。そして、多くの心理職の環境では自然とそれを得ることはなかなか難しい。研鑽や研究を促進するよう人間関係をデザインすることも求められるのだろう。

行動指標の活用は今後、理論や具体的手続きの問題とは別に個々人の臨床現場の問題と合わせて語られる必要がある気がしている。大学教員や同僚と意見を交わし合える環境で働く心理士と1日16ケースを担当する環境の心理士ではリアリティが大きく異なるはずで(どちらが楽、苦しいという話ではない)、その溝は「努力不足」「スキル不足」のメッセージでは埋まらないだろう。「うまくいってなさ」を自覚する者の声は閉ざされた場所で自虐としては表出しても、開かれた場所では正しさと後ろめたさから抑制される。少数精鋭で行くのだ、という道を選ぶならばそれでも良いのかもしれないけれど。

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