認知行動療法と医療保険 1

先の記事への補足です。

認知行動療法とその実施者

「心理カウンセリングへのアクセス [どのように編]」において、心理カウンセリングは公的医療保険の適用対象ではない、と述べました。

実は医師および医師と看護師が行う認知行動療法(以下CBT)は保険適用となっています。CBTは誰が行うかによって保険の対象/対象外が変わってくるのです。

保険の適用対象: 医師、医師および看護師
保険の適用対象外: 心理士、精神保健福祉士、作業療法士など

日本でのCBTの担い手は医師と看護師がメインだから、CBTに一番詳しいのが医師と看護師だから、ということであればわかりやすいのですが、実際には心理士がもっとも多くCBTを実施しており(高橋ら,2018)、また主たる学会(たとえば日本認知・行動療法学会や日本認知療法・認知行動療法学会)の会員の多くが心理士(丹野,2014)です。

にもかかわらず心理士によるCBTは保険対象外である現状は、一見不思議な印象を与えるかもしれません。事情や良し悪し、今後の展望はどうあれ今のところはそうなっています。

保険適用のCBT

話を戻しましょう。ここでは詳細は省きますが、CBTが保険適用となる要件として、
・認知療法・認知行動療法に習熟した医師および医師と看護師が実施する
・1回30分以上
・16回まで
といったことが定められています。

対象はうつ病などの気分障害、強迫性障害(OCD)、社交不安障害、パニック障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、神経性過食症の患者さんで、厚生労働省が作成したマニュアルに従って実施されます。

ほとんどの精神科・心療内科には医師だけでなく看護師も在籍していますから、このように制度設計がなされたことにより、「薬物療法だけでなく他の治療法も試してみたい」と考える患者さんにとってはとりうる選択肢が広がりそうに思えます。

保険点数化、その後

では、保険点数化され、マニュアルも作られたことで、CBTは受けやすくなったのでしょうか。今、上記の症状で苦しんでいる方が身近なクリニックを受診して「医師によるCBTを受けたい」と伝えればCBTによる治療を受けることができるのでしょうか。

残念ながらそうはなっていません。

海外の潮流やさまざまな疾患へのCBTの有効性が謳われる一方で、吉永(2018)によって保険診療における算定件数は伸びていないことが報告されています。高橋らによるもの以降、詳細な調査は行われていないようですが(見つけることができませんでした)、身近なクリニックで保険適用のCBTを受けることは以前難しいまま、と言えるでしょう。

どうしてそのような状況が続いているのでしょうか。次回に続きます

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<資料>
・高橋史・武川清香・奥村泰之・鈴木伸一 (2018). 日本の精神科診療所における認知行動療法の提供体制に関する実態調査 行動臨床心理学研究室,http://ftakalab.jp/wordpress/wp-content/uploads/2011/08/japancbtclinic_report.pdf
・丹野義彦 (2014). 認知行動療法への3つの誤解 エビデンスをあげて反論する 駒場の授業,https://park.itc.u-tokyo.ac.jp/tanno/cbt_metaanalysis.pdf
・吉永尚紀 (2018). 質の高い精神療法(認知行動療法)の迅速な普及に向けて:National Databaseを用いた実施状況・地域差の把握と提供体制整備への示唆 医療経済研究機構,https://www.ihep.jp/docs/21_yoshinaga.pdf

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